Club Penguin 成功秘話


この1週間で、最もHOTだった仮想世界系ニュースは、恐らく、ディズニーによるClub Penguinの買収だったと思う。ソニーが買収を提案しているとの話を耳にしたのが5月末。その後決裂しているとは聞いたものの、まさかのディズニーだった。

この仮想世界は2005年にカナダでスタートした、チャット、ゲームなどを主としたコミュニティ空間で、現在、有料会員数は約70万人。これは、昨年の40 万人から大幅に伸びている。そして、アメリカとカナダを中心にアクティブユーザーが1200万人。Second LifeWorld of Warcraftを軽く超えている。メインユーザーは8歳〜12歳。会費を払うと、コミュニティ内に自分の家(Igloo)が持てるが、払わなくても、チャットやゲームなどの基本的な機能は楽しめる。

クラブペンギンのいい点は、親が安心して子供を遊ばせられる仕組みがいくつもとられていることである。まず、メンバー同士のチャットに、「Ultimate Safe Chat」と「Standard Safe Chat」の二通りを用意している。Ultimate Safe Chatでは、もともと用意されたセリフを選択して発言する方式で、自由な発言はできない。一方、Standard Safe Chatでは、ユーザはキーボードでタイプして自由に発言が可能だが、発言される内容についてはワードフィルタがかけられており、不適切な発言はできないようになっている。

とはいえ、フィルタリングには制限があるため、「モデレータ」とよばれるスタッフが常駐しており、問題があると黙らされたり追い出される。 モデレータが気がつかなくとも、モデレータに言いつければ、適切な処置をしてくれる。また、一般メンバーでもボランティアで、「シークレットエージェント」となり、モデレータのアシスタントとして積極的に悪いペンギンをレポートする役割を与えられる場合がある。これに任命されると、専用ツールが与えられたり、スタッフ専用ルームへの入室が認められたりする。子供に特別感、優越感を与えて、自分たちで安全な環境を保つうまい仕組みである。

クラブペンギン(社名はNew Horizon Interactive)は、お父さん3人組が、クレジットカードローンや自己資金、友人からの出資、そしてエンジェル投資を基に作り、数々のVCからの声かけを一切排除して、ここまでやってきた。収入源は会費(月額$5.95)、グッズの販売を中心としたもので、年の予想売上げは$65M程、マージンは5割ほど。そして、利益のうち、かなりの額を慈善活動に寄付するというポリシーを一環して貫いている。 買収金額は$350M、2009年の業績をマイルストーンとして更に350Mまでのearn-out付きである。

今回、創設者であるLane Merrifield氏、Dave Krysko氏、Lance Priebe氏の3人がクラブ・ペンギン売却を決めたのは、成長のためにパートナーが必要な時期に来たため」らしい。ソニーをはじめとして、何社かの企業に売却を持ちかけたものの、ディズニーと価値観が共有できたため、ディズニーに売却という運びになった。これも、CEOである、メリフィールド氏はディズニーの元従業員で、クラブ・ペンギンの多くの部分はディズニーでの経験をもとにしたことに由来すると思われる。

創業者3人は、ディズニーの中にできる部門の経営上層部に留まり、クラブペンギンの本社機能もカナダのブリティッシュコロンビアから移動する予定はない。また、ディズニーは、クラブペンギンの運営やビジネスモデルに対し、しばらくの間、変更を施す計画はないという。

お父さん3人がVCから一切お金を入れず、クレジットカードローンなどをかき集めて会社を作り、子供を喜ばせるためにサービスを展開し、アクティブユーザーを1200万人も集め、ローンチからわずか2年でディズニーに売却。しかも、その額最高840億。さらに収益からかなりの額を慈善事業団体に寄付。なんとも心温まる話である。なお、クラブペンギンに似たサービスは同じくカナダのWebkinzなど幾つかあって、当分の間、それらを始めとした子供向け仮想世界に注目が集まりそうだ。